我が家の粉挽き機
イギリスにしばらく滞在していた頃、 Redbournbury Mill という、元々は11世紀初頭から水車で動かしていた粉挽き小屋兼ベーカリーへ娘に連れられて行ったことがあります。今はディーゼルで動かしているらしいのですが、昔の生活を振り返れるちょっとしたミュージアムもついていて、石臼の動く様も見物できる中々楽しいところでした。
そこのベーカリーの見た目はなんの変哲もない素朴なパンの味は忘れられません。挽きたての粉で作るパンはふくいくとした香りが鼻腔をくすぐり、自然の甘みが口いっぱいに広がり、これが粉の美味しさなのだと実感しました。
イタリア人の食にうるさい友人も、粉は鮮度が命、とよく言っていましたっけ。袋に詰められた市販の粉は消費期限は年単位でかなり長く書いてあるけれど、本当は日に日に酸化して味が落ちていくものなのだと。日本は湿気のある梅雨の時期もありますし、粉の鮮度管理はヨーロッパ以上に難しいでしょう。だからこそ、使う分だけ挽きたての粉が手に入るというのは、この上なく贅沢な気がします。
ある日、フード関連の見本市をぶらりと歩いていたら目に止まったのがこのドイツ製の粉挽き機でした。こんな良いものがあったなんて、と即決で購入。
中には電動で動く石臼が入っていて外側は素敵な木製です。イギリスでは玄麦(げんばく)は普通の小麦以外に古代穀物のスペルト小麦も簡単に手に入るので、挽きたての粉でパンを焼くことはそれほど難しくありません。
玄麦とは粒のままの小麦。玄米を想像していただければ分かりやすいでしょう。
イタリアの家では、一体いつからそこにあるのか分からない粉挽き小屋が近くにありました。粉挽き小屋の石臼は水車で動くので大きな池があり、周辺は野生のシクラメンやジネストラなどが咲き乱れて夢のような野の花の天国。そこでは空気が花の香りです。注文に応じて粉を挽いてくれるその小屋は、一袋用意してもらう間に池のアヒルを眺めているのも楽しみでした。粉挽き一つとってもそれぞれのお国事情があるものです。
その後、引越し荷物と一緒に粉挽き機も日本に到着。イギリス家電の電圧に合う変圧器を介し、日本でも使用可能にしました。がしかし、肝心の玄麦がないことに気が付きます。
「小麦粉があるのに、粒はないなんて変ね。」と思い、穀物屋さんに尋ねてみたら、
「玄麦は規制があって入手は難しい。」とのこと。
一目惚れして買った粉挽き機でしたが、しばらくは決して広くない都会の我が家で、何の役にも立たないままにでんと居座ることになりました。本体の粉挽き機はコンパクトではありますがどっしりしています。その上変圧器もとても重く、まったくもって無用の長物でした。
国産の挽きたての粉を求めて
日本では挽きたての粉が欲しければ自分で作るしかない。
「どうせなら国産の玄麦を手に入れて挽き立ての粉で全て国産でパンを焼きたいけど無理かしら…。」と思っていたところ、最近になって国産玄麦入手が可能になったことが分かり、待望の有機栽培の玄麦を送っていただくことができました。やっと我が家の粉挽き機の出番が!窮すれば通ず、ですね。
今ならネット販売で買うことも可能です。玄麦はメジャーなものではありませんが、よくよく探すと見つかります。
残った粉を落とすのに重宝してます
小麦の自給率はわずか15%
ところで、パンといえば輸入小麦が大多数を占めていますが「粉食がこれほどまでに拡大したのであれば、国産小麦で作るべき。」というのが私の持論です。粉のような食材の基本になるもののほとんどを輸入に頼っていたのでは、何かあった時に取り返しが効きません。国内で消費するものはできる限り国内で作られたものを消費すべき、食糧自給率を上げなくてはと常々考えています。世の中何があるかわかりませんし、その方が安心ですよね。100%は難しくても可能な限り自国産で賄うのが理想です。まずは消費者が率先して変わらなければ世の中は変わってくれるものではない、と肝に銘じて毎日の食を考えています。行政にお任せ、では埒があかないことは自明のこと。まずは自分ができることを小さくても始めることかな、と。この粉挽き機は色々なことを考えさせてくれます。
日本の電源、コンセントでも使えるこの同じ機械がネットで売られているのを見たと娘が言っていました。興味のある方はぜひ探ってみてください。粉挽き仲間ができたら嬉しいです。
私が作るパンは、塩も国産、少量の砂糖は徳島の和三盆を使います。全て国産はなんだか気持ちがいいものです。
ある日の朝食
ある日の朝ごはんに
パンにクリームチーズを塗りサーモンやきゅうりを乗せて温かい紅茶と。
今、私が作っているパンのレシピ
材料
- 挽きたての強力小麦粉(春よ恋):200g
- 超強力粉(ゆめちから) 100g
- 強力粉(春よ恋) 100g
- 和三盆 大さじ2-3
- 塩 小さじ1
- イースト 5g
- ぬるま湯 280ccくらい
作り方
1)ぬるま湯以外の全ての材料を混ぜ、ぬるま湯を加えて混ぜてこねる。キッチンエイドやクイジナートなど、機械を使えば、私のように慢性的な手の痛みに悩まされていてもパン作りは可能です。これでベーシックな作業は終わり。
2)中ボウルに入れて1時間、30度で発酵。(冬はオーブンの発酵機能を使う)
角バットに熱湯を入れて オーブンの発酵機能で30度
3)取り出してガス抜き、軽く丸めてもう一度40分くらい発酵。
4)取り出してもう一度丸めてオーブンシートの上に置き、オーブンが充分に温まるまで大ボウルでカバーして置いておきます。(20分くらい)
5)焼く前に底の部分を丸くするようにうっすら粉をはたいたスケッパーで入れ込んで形を整え。表面に粉を振ります。
6)200度で30分〜35分ほど焼きます。
7)焼き上がったら網の上に置いておきます。
焼き立ては皮が硬いですが、しばらくするとやわらかくなります。粉の良い香りですぐに食べたい衝動にかられます。
およそ4時間、家に居る時間があればこのパンを焼くことができますので、今は週一で焼いています。
この美味しさを皆に味わってもらいたいなぁ、と心から思います。