農耕夫のランチ Ploughman’s Lunch

ploughman's lunch, Branston Pickle

切って並べるだけでなんとなく素敵に見える!お友達を呼んでランチを楽しむ時にぴったりなお手軽イギリス料理。材料さえ揃えば、本当に切って並べるだけなので料理と呼べるかすらわからない、Ploughman’s Lunch(農耕夫のランチ)を今日は作ります。

Ploughman’s Lunchという言葉自体は、元は60年代にチーズを売るために作られた乳製品業界の広告キャッチフレーズだったようですが、今ではパブメニューとしても一般的。

まるでごはんの友?イギリス人に欠かせない、Branston Pickle(ブランストンピクル)

BRING OUT THE BRANSTON!

これはイギリス人の家に必ず常備されているといえるほど国民的な食べ物、「Branston Pickle」という甘酸っぱいソース味の食事用ジャムのようなものです。(こんな説明じゃあ分かりづらいですよね…)

ピクル(ス)といってもハンバーガーに入っているようなピクルスとはイメージが程遠く、野菜と果物やスパイスをジャム状に煮詰めたもので、トーストに塗って食べるのが定番。

Ploughman’s Lunchには欠かせないですし、一年でもっとも重要な食事、クリスマスディナーにもなくてはならない一瓶です。チーズと一緒にクラッカーにのせたり、サンドイッチにしたり、ソーセージロールにつけたり、マカロニグラタンにのっけたり、ローストディナーに付け合わせたり、と日本人にとってのごはんの友、海苔の佃煮のような存在といえるでしょう。

瓶に「SINCE 1922」と書いてあるように、イギリス中部にあるBranstonという村でCrosse & Blackwellという会社が1922年に作って以来、イギリスのサンドイッチに革命を起こした!といわれるほど島中に瞬く間に浸透しました。インド料理で食べるチャツネがイギリス風にマイルドな味にアレンジされたもの、といえば味を想像しやすいかも。

映画「ブリジットジョーンズの日記」で主人公ブリジットが瓶からそのまま直接食べるシーンがあったり、ローリングストーンズのギタリスト、キース・リチャードがワールドツアーに出る時は必ず持参するという話も有名な「イギリスの家庭の味」です。

いつの間にか日本のものになっていたイギリスの家庭の味

このブランストンピクル、いかにもイギリス的な食べ物の代表なのですが、なんと今は私たちに馴染みの深い「ミツカン」の製品です。

英プレミアフーズ社からミツカンに2013年に買収されたそうで、「ブランストン」ブランドは元の製造会社Crosse & Blackwellからネスレやら何やら転々と売られ、今のミツカンに辿り着いた経緯があります。なんと不憫な運命でしょうか…。その上、一部の古参ファンからも散々な言われようです。

「昔となんだか味が違うんだよ!」

「いつの間にかSulfur(硫黄)が添加されている!元々ピクルスは保存食なのに保存料を添加するなんてどうかしている!」

と、特に硫黄アレルギー持ちがいる家族からは「一口食べただけでアナフィラキシーショックもありえるぞ。」と非難轟々です。と、このようになんだかんだあったとしても英国ではブランストンピクルの人気は不動なのでしょう。

ミツカンといえば15年くらい前でしょうか、母の有元葉子がイギリスに長く滞在していた頃、日本食を作ろうとミツカンの米酢を買ってきた時のことです。ふと材料表示を見てみたら「Water」と書いてあり、母は「え?酢なのに水が入っているの?水で薄めてるってどういうことかしら…?醸造酢じゃないってことなのねぇ。」とがっかりした顔を見せたのも束の間、そのミツカン酢をさらに水で薄めてスプレーボトルに入れ、「お風呂場の掃除にこれ便利ね!水の跡がとれてピカピカになるわ!」と、うれしそうな顔をしたのを思い出しました。(笑)

それ以来我が家は、寿司飯作りにもローカルで手に入りやすい醸造酢の白ワインビネガーやリンゴ酢を使っています。断然美味しくて、しかもミツカン酢よりも安い!

秋の季節、りんごだらけのイギリス。

秋のイギリスは、ロンドンのような都会でも公園や庭のりんごの木にたくさんのりんごが成っていて枝々が重たそうです。皆収穫を心待ちにして採るのを我慢しているのかと思いきや、公園のりんごは料理用の甘くないものだからか誰もとらないし、どこの家でも大量のりんごを持て余している様子です。

つい先日訪れたフードフェスティバルで、近所の家々で実ったりんごを集めて作ったという、ホームメイドのアップルサイダービネガー(りんご酢)を手に入れました。「このカゴの中のりんごもどんどん好きなだけ持っていきなよ!あ、食べる時は気をつけてね。虫が入っている可能性がかなり高いから!」とタダで甘くない種類のりんごをたくさん頂いてしまいました。

さて何を作りましょうか。

… せっかくサイダービネガーとりんごがあるのなら、自作ブランストンピクルを作ろう!と決め、冷蔵庫の中で使えそうなものを探りました。

ところでこのりんご酢、そのままクイッと飲んでもむせないくらいマイルド!酸っぱすぎ、甘すぎチャツネは苦手という子供たちのために作るのですが、これならじゃぶじゃぶ使えそう。

ブランストンピクル的なチャツネの材料(2〜3瓶分)

  • 甘くないりんご 400gくらい
  • りんご酢 300cc
  • にんじん 140g
  • カリフラワー 140g
  • 赤玉ねぎ 大きいなら1個
  • にんにく 3個
  • しょうが 一片
  • デーツ 10個 種をとってみじん切り
  • トマトペースト 大さじ2
  • ブラウンシュガー 90g
  • 塩 小さじ1
  • パプリカ 、シナモン、タイム、マスタードシードなどのスパイスを各小さじ1〜2
  • ナツメグ 少々

こういうフルーツと野菜のチャツネって、ちゃんとした作り方も材料もあってないようなものだと思っています。野菜はその時にあるもので作ればいいと思うし、アレンジも星の数ほどあるんです!

干しブドウを入れる、モルトビネガーで酸味を強く、Molasses(モラセスシロップ)で色と甘みに深みを、トマトはフレッシュのものを、りんごではなくダムソンプラムで、スウィード(根菜)やズッキーニはぜったい入れる、カイエンヌペッパーをたくさん入れてピリ辛に、などマイルールは数えきれない!

私が使った上の材料もたまたま家にあったからこの材料で適当に作った、というのが正直なところです。

りんご、やはり虫喰い部分ありました。喰われて変色した部分を除きつつ、皮ごとダイス状に。せっかくの露地物の無農薬りんごなので皮は剥きません。ニンジンもダイス状、カリフラワーはニンジンとだいたい同じくらいの大きさに切ります。赤玉ねぎはスライス、にんにくとしょうがはみじん切りに。

オリーブオイルを熱し、にんにくとしょうがのみじん切り、マスタードシードを炒め、赤玉ねぎのスライスとスパイスも入れて弱火で炒めます。

ブラウンシュガーを入れ、キャラメライズするまでよく炒めます。

りんごと刻んだデーツを入れて底からよく混ぜて煮ます。

タイムの葉っぱを、根から茎先に向けて指先でしごき取って加えます。

りんご酢をどぼどぼと入れます。

柔らかく煮えてきたらハンドミキサーで潰します。トマトピューレも加えます。

歯応えを残したい野菜類は、ベースの玉ねぎとりんごを潰してから加えます。

底のほうが焦げつかないように水を少し足したり底から混ぜたりしながら、フツフツと静かに1時間ほど煮ます。

にんじんが煮えて、味を塩こしょうなどで整えたら出来上がり。煮沸した瓶に詰めます。二瓶とちょっとの量が出来ました。

赤玉ねぎのマリネのつけあわせ

英国で最も有名なミシュランシェフ、ゴードン・ラムジーは、さすがに洗練された「俺のプラウマンズランチ」を披露していて、豪勢なサラダに生の赤玉ねぎを赤ワインビネガー、調味料と揉み込んだものをサラダに入れていました。(興味のある方はこちらをご覧ください→youtube動画

私の作ったブラストンピクルは酸味が弱いので、ちょっとこの赤玉ねぎマリネも付け合わせに作っておこう!

ゴードンラムジーは全く気にしていませんでしたが、生の玉ねぎの辛味がわたしも子供たちも苦手で胃にクッとくる感じがあります。新玉ねぎなら大丈夫なんですが、今回使うのは普通の赤玉ねぎなので流水でよーくさらして辛味をとります。この時便利なのがラバーゼの小ボウルと小浅ざるのコンビ。水を流すときに浅ざるをのせておけば、中身が流れ出すことがないので便利です。ネギのみじん切りや白髪ねぎのような細かいものも、まったくこぼれないので便利ですよ!

食べてみてツンとくる辛味が抜けたらOK。ぎゅっと絞って水気を切り、オリーブオイル、赤ワインビネガー、塩こしょうで調味しておきます。

左の小鉢に入った赤玉ねぎマリネがサンドイッチのいいアクセントに!母、葉子にこんなサンドイッチ作って美味しかったよと報告したら、「私も昨日赤玉ねぎのマリネでサンドイッチ作ったわ。」ですって。シンクロニシティ!

沸騰したお湯で殺菌した瓶につめたブランストンピクル。本当は2週間くらい寝かしておいてから食べるのが理想らしいのですが、息子がホワイトソースの入ったチキンパイとこのブランストンピクルの組み合わせにハマってしまい、あっという間に空になりそうな勢いです。以前に作った赤玉ねぎのモルトビネガー&モラセスシロップチャツネは、子供たちは全く食べてくれなかったのに、味の好みって成長と共に変わるものですね。

せっかくなのでチーズはチーズ専門店で英国産のものを買ってきました。奥がウェールズのHafod Chedder (ハフォドではなくハヴォットチェダーと読むそうです。ウェールズの言葉って複雑!)手前のブルーチーズは Stichelton(スティチェルトン)です。Stilton(スティルトン)チーズは有名ですが、スティチェルトンは20数年くらいしか歴史がなくて、殺菌処理をしていない牛乳を使ったブルーチーズをスティチェルトンと呼ぶようになったそうです。イギリスのチーズとブランストンピクルの相性は最高なのです。

サワードウのトースト、サラダ菜、トマト、甘いりんごのスライス、茹で卵、ハムやサラミ、ガーキンピクルス、ブランストンピクルとマヨネーズなど大皿や大きな木のボードに並べたら完成。我が家はこれにミルクティですが、大人はビールで!が定番です。

トーストしたパンの一方にブランストンピクル、もう一方にマヨネーズを塗り、間にチーズやりんごのスライスやサラダ、ガーキンピクルスなど好きなように挟んでいきます。プラウマンズサンドイッチは、ハムやサラミがなくても充分満足できるボリューミーなサンドイッチになるので、ベジタリアンにも人気があります。

このマヨネーズは全卵を入れて作りましたが、ビーガンのゲストが1人でもいたら絹ごし豆腐で作るビーガンマヨネーズが美味しいです。水切りしたお豆腐にオリーブオイル、りんご酢、塩胡椒を適当に入れてミキサーで攪拌するだけ。すこーしだけにんにくのすり下ろしを入れるとガツンとした味になるし、フレッシュハーブを入れれば色も香りも良くなります。お肉食べる派もビーガンマヨネーズだとは全く気がつかず美味しく食べてくれるはずですよ!今はビーガンチーズとかビーガンベーコンとか、色々ありますがそのまま食べてもあんまり美味しくはないんですよね。プラウマンズサンドイッチにするとビーガン食品でもびっくりするほど美味しく感じます。色んな食の志向をもった人が集まる時は、各々が好きなように作って食べられるこんな英国的メニューはいかがでしょう。

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