解決しないと人類滅亡…「食品ロス問題」
「食品ロス(Food Waste) 」は、私たちが今取り組むべき世界的な大問題ですね。
以前に書いた食品ロス関連の記事はこちら。廃棄処分される運命だった野菜や果物を、毎週サブスクで届けてもらえる宅配ボックスサービス「Oddbox」を紹介しています。→ 禍転じて福と為せる? コロナ渦のプラス思考)
本来食べられるのに捨てられてしまう食品を「食品ロス」といいます。
腐ってもいない食べられる食品だけをカウントして、廃棄する量が日本では年間643万トン。世界では13億トン。生産する食べ物の実に三分の一(!)が捨てられている計算です。
これ、パッと聞いただけではどれくらいの量なのか想像し辛いし、にわかに信じられないですよね。
世界の飢餓だけなく、日本国内でもご飯を満足に食べられない人がたくさん居る一方で、日本人の1人当たりの食品ロス量は1年で約 51kg。この数字は毎年着実に増える一方で、ほんの数年前までは47kgでした。そして単に51kgのムダだけではなく、その食品を生産するには大量の水、燃料、飼料も使います。日本は6割の食品を輸入に頼っているので、大量の燃料を使い海外から運んで、捨てるのにもわざわざお金を払って捨てる、という二重三重にもなるムダ中のムダが、毎日毎日繰り返されています。
そんな中「世界から食品ロスをなくそう」という壮大な目標を掲げて、西側諸国で今人気を博しているスマホアプリがあります。
Too Good To Goという2015年にデンマークで開発されたアプリが、同じ問題意識を持った人たちが国境を越えて集まり、いまでは世界中に広がる一大事業になるまでに成長。イギリスでは去年の夏の段階で、本当に有効活用できそうなのは人口密集地の都市中心部だけで、参入している店舗がまだまだ少ない印象だったのですが、今ではかなり広範囲の地域でアプリを利用できるようになりました。
Too Good「良すぎる」To Go「捨てるには」という名前も秀逸です。
日本ではTabete というアプリがありますね。サービス内容はおそらく一緒です。→ https://tabete.me/
Too Good To Go アプリの見た目はこんな感じ。現在地を設定すると、周辺の参加店舗の利用可能状況がひと目で見られます。
何が買えるのかは基本的に選べません。その日にその店で売れ残ったものを寄せ集めた「マジックバッグ」という名のお楽しみ袋を定価から7割引き程で購入できます。
こんな低価格の上に決済は手数料の要るカード支払いのみなのでお店側に利益は全く出ませんが、「食べ物を捨てるというストレスから解放されることは大きい」と、アプリに参入する事業者は増える一方です。この言葉の説明が一切ないビデオが事業者の気持ちを良く表しています。
マジックバックあれこれ。当たり外れがあるのが楽しい!
論より証拠、とりあえず試さなくては良さはわかりません。
まず試してみたのはロンドンに何店舗もあるチェーン店のフレンチ系ベーカリーカフェ、The Orée 。夜7時から7時15分、という短い指定時間に合わせピックアップに向かいました。マジックバッグは定価で£10(1500円)相当の品が→ £3.49(およそ500円)にディスカウントと書いてありました。実際は下の写真をご覧いただきたいのですが、定価を計算すると£15を超える内容。クロワッサンは翌朝の朝食にするとして、当日の夜7時過ぎにサンドイッチを食べるのに少し違和感を感じながら、作ってあったパンプキンスープと合わせ、サラダをつけて軽めの夕食に。
散歩途中のベーカリーカフェ Toast Rack Cafe
マジックバッグは£10 相当(1500円)→ £3.33(およそ500円)とありますが、こちらも優に£15を越えそう。
新玉ねぎをちょうど買おうと思っていたところだったので「やったー!」と声がでました。パンと野菜や果物などの食材を売っているお店なので、毎日の買い物に無理なく組み込めるラインナップです。
バッグの中身の素晴らしさに、子供たちも「本当にToo Good To Go だね…!これが今まで捨てられていたの?とても信じられない!」と驚嘆。
馴染みのあるカフェやスーパーマーケットの店舗だけでなく、周りにお店のない個人宅や人気のまばらなインダストリアル地域が指定のピックアップ場になっていることもあり、ちょっとした宝探し気分でわかりにくいピックアップ指定場所を探すこともあります。こんな風に線路の高架下がインダストリアルサイトになっているところが多いです。看板も出ていないので、番号を頼りに探します。
人気もまばらの場所に、やたらにUber Eatsのバイク乗りが集っている場所を見つけました。テイクアウトレストランの厨房が集まった場所のようです。髭のバイク乗り達をかき分け、「Too Good To Goのオーダーをピックアップにきました!」と受付の方に告げると、「隣の扉の外でちょっと待ってて」と指示が。
しばし待っていると、「これちょっと重いけど」とずっしりとした紙袋を渡されました。これは家まで袋がもたない。布のショッピングバックを持参してきて正解でした。
食材デリバリーのお店、お寿司チェーンの Wasabi、健康志向の惣菜屋 Fresh Fitness Food to Goの三店舗からの食品が一袋のマジックバッグ£3.39に詰め込まれていて、なんと定価で£55超えの商品が入っていました!お寿司は心配じゃない?と思われる方もいるかもしれませんが、きちんと管理されていた様子で全く傷んでいません。餃子の消費期限はまだ余裕があったのでお弁当に回します。サラダもたくさんついてきて、この晩は全く料理する必要がありませんでした。
Toast Rack Cafe のパンはとてもおいしいので、今度は子供だけでおつかいに行ってもらいました。
ただいま〜見てみて〜!と帰ってきた子供のもつカゴをみてびっくり!すごい量です。£3.33(およそ500円)しか払っていないのが申し訳ない気分。写真には残していませんが、私が一番最初にこのお店に行った時は、小さなパン二つとポートベローマッシュルームが一つだけポロンと入っていました。日によって余る量がこんなに違うのか、こどものおつかいが珍しくてたくさん入れてくれたのか…?きっと両方ですね。
「棚に残っているもの好きなもの選んでいいよって言われて、どんどんかごに入れてくれたの。」と娘。
気になるかごの中身はこの下の写真をごらんください。パンはすぐにスライスして冷凍庫へ。野菜はマリネしてあった豚肉と共にトマト煮込みにしました。
カフェや小さいスーパーマーケットのマジックバッグは、その日が消費期限のサンドイッチをたくさん入れてくる傾向が強いです。サンドイッチばかり夕方以降に食べるのはタイミングがあまり良くないので避けていたのですが、ある日、観葉植物屋さんとビーガンカフェが一緒になっているお店でマジックバッグを試してみたら普段買わないようなサンドイッチが二つ入ってきて、定価はひとつ£4、2種類で£8→£4(600円)でした。
あー失敗、高いし内容がハズレだ!と思いましたが、左のモッツァレラメルトをフライパンでホットサンドイッチにして熱々で子供のおやつとして出したら喜ばれました。右のメキシカン風豆とアボカドのサンドイッチは子供は手をつけず必然的に私の夕食に。結構スパイシーでした。こういうサンドイッチは、ラッピングがゴミになってしまうのが難ありですね。
やはりカフェではなく、食材屋さんで買うマジックバッグの方が、使い方が工夫できるので無駄がない。
お次はDijaというスマホアプリの食材配達ショップのマジックバッグです。
今年になってから、スマホで注文して15分以内に自転車で届けてくれるというアプリのサービスが爆発的に増えました。去年は自己隔離しなくてはいけない時など、食材配達の枠を確保するのが難儀だったので、その需要に答えた結果でしょうか。
£3.34(およそ500円)でこの内容。ちょっと花が黄色くなりかけたブロッコリー、茎が枯れ始めたプチトマト、ブロッコリーは炒め麺の具に、トマトはサラダにしてその日のうちに食べました。消費期限ギリギリのバターとミルク、にんじんはゆっくり食べても全く問題なし。
この「日付の表示」がそもそもの食品ロスの元凶では?という疑問も度々メディアでとりあげられています。
賞味期限、消費期限の表示を無くしてしまえ、もっと己の鼻と舌を信じよう、と「LOOK, SMELL, TASTE」という運動もToo Good To Go がムーブメントにしようと取り組んでいますが、食品会社が企業としてこれに参加するのは、なかなか法的にも難しいことなのかなと思います。法律を変えるには行政の改革が必要なので時間もかかりますね。
環境先進国、ドイツ系スーパーマーケットの取り組み
Too Good To Go のアプリの他に、スーパーマーケットで独自に食品ロスを減らそうという試みもあります。
その名も「Too Good To Waste Box(捨てるには惜しいボックス)」
このボックスを販売しているLidl(リドル)というドイツ系のディスカウントスーパーマーケットは、東欧系の食材が豊富でとにかくなんでも安いことで有名。このチェーンのスーパーマーケットに朝イチに向かい、運が良ければレジ近くに野菜や果物がたくさん詰まった箱が並んでいて、なんと一箱£1.50(225円)で販売されています。私が一度だけ購入できたのがこの下の写真。イチゴとチェリーは他のものと一緒にごちゃまぜに入っていて少し痛んでしまっていたので、洗ってジャムにしました。マッシュルームはとにかく大量だったので、刻んでにんにくとオリーブオイルで炒めてペースト状に。半分は冷凍、半分は左上のほうれん草、赤玉ねぎと一緒にベーコンと炒めてパスタの具に。
食品ロスをゼロにするアプリの合わせ技!「Olio」で過剰分をムダなく消費。
Too Good To Goで食品ロス削減!と謳ったとしても、買うバッグの中身は選べないわけですし、食べられないものが入っていたらどうするの?という問題があります。一応大まかに、ベジタリアン用/肉製品あり、と選択肢が選べるお店もありますが、好みに合わないとか、手持ちの食材と被ってしまって「食べられない」ものが必ず出ます。それを捨てては元も子もなくなりますね。
私の場合はこのスープなどに入れる細いパスタが立て続けにマジックバッグに入っていて、3袋溜まってしまいました。消費期限は2年以上も余裕があるので大丈夫なのですが、引っ越しを控えていたのでストック食材はなるべく減らしたい。
そんな時に便利なのが「Olio」という別のアプリです。
基本的にお金のやり取りはなく「FREE」カテゴリーの中で食べ物と食べ物ではないもの(家具や使いかけの化粧品やらなんでも)がやりとりされています。「MADE」カテゴリーでは手作り小物や手作りお惣菜を売り買いできるのですが、「FREE」に比べ、それほど利用している人はいないようです。
もらって欲しい食材の写真をとり詳細を書いてアップします。「本当にもらってくれる人は現れるのだろうか?」と正直不安に思いましたが、アップしてからわずか2時間以内にもらい手が見つかり、喜んでもらえて私も嬉しい!
なかなかよくできたアプリで近所にも利用者が多いので、引っ越し前の要らないもの整理にとても活躍しました。空気清浄機やアイロン台など、郵便で送れない大きいものをどしどし取りに来てくれるので助かりました。
地球のためになにかしたかったら、一番はまず自分を労ろう
Too Good To Go を記事を書くためにたくさん使ってみて思ったのですが、調理済みの食品というのはその日に売れないとゴミになってしまうものが多いということが良くわかりました。しかし、そういう出来合いの食品を一切なくそう!という主張をしたいのではありません。料理をする気がないほど疲れたり、病気になってしまったり、時間が全くない人もたくさんいます。私も今回の引っ越しはUber Eatsなしには乗り切れなかったかもしれない、と思うほど助けられました。外食産業は便利さや心の豊かさと雇用を生む大事な存在なので、食品ロスをなくす努力を絶やさず、需要供給バランスを崩さなければ良いのですよね。とても難しいことですが不可能ではないと思います。
Too Good To GoやOlioというアプリを使って食品ロスをなくす、という試みは今回の記事のためだけではなく、すでに私の日常に取り込まれた感があり、これからもずっと使い続けると思います。ただゴミが出ないよう色々工夫したり、大量の食材を一気に調理したり、アプリでやりとりをする時間もとられるので、自分自身に余裕がないと辛いなと思うこともありました。地球のために何かしたかったら、まず自分自身が元気がみなぎるように、少し甘やかしたり労ってあげる、というのが先決のような気がします。YMOの歌にもありましたね。いつぞやの国際コミュニケーション年のテーマソングになった「以心電信」という名曲で、「世界で何が起こっているかみてごらん、まず自分自身を助けられないと、他の誰かを助けるなんてムリだよ。」(英語部分意訳)という歌詞でした。今この時代に聞いても響きます。
問題アリだった以前の解決法、ダンプスターダイビングをアプリが改善!
食品ロスの問題はなにも最近起こったものではなく、長い間ずっと未解決で年々ゴミは増えていく一方でした。こんな便利なアプリができる前、人々はこの問題にどう取り組んでいたのでしょうか?
答えはシンプルで、実はゴミ箱を漁っていました。
え??何言っているの?と思われる方もいるかもしれませんが、本当のことです。
Too Good To Goのアプリを利用している事業者は、まだまだマイノリティ。いわゆる先進国の店舗の裏では、たった今もこの方法でフードロスに立ち向かっている人はいます。この行為には名前がついていて。”Dumpster Diving”(ゴミ箱ダイビング)といい、文字通り人が立てるくらいすっぽり深いゴミ箱にダイブして(潜って)食べられるものを拾います。もちろんこれは違法行為なので、人通りがなくなる夜中に何人かで見張り係、ダイブ係、受け取り係と役割分担しチームで行われることが多いそうです。衛生的にも問題があるし、危険も伴うので皆がやれることではないです。鼻が利く人間がいたら重宝されるかもしれませんね。便利なアプリの登場で、合法&安全な方法で同じことができようになったのは大きな進歩です。ダンプスターダイビングがどういうものかわかりやすい動画をみつけました。(不遇な運命の野菜を哀れむ歌が流れています。少々不適切な内容かもしれませんが…!)
食品ロスをなくす新しいしくみは女性主導、女性ユーザーが主な「マイナー産業」
前出のOddbox、今回のToo Good To Go、Olio の経営者が一同に介したインタビュー動画を見つけました。
起業家の集まりでは、まだまだ女性は珍しい存在なのだそうです。特にOlioはユーザーの75%程が女性、と私も使ってみて思うのですが、この3つのサービスはどれも女性のユーザーが多いです。ですが投資家はほぼ男性ばかり。女性の経営者が育てる女性向けのサービスを、男性の投資家に価値を理解させるのはなかなか難しいことなのだそう。
参加者からの「これからたくさんあなたたちのサービスを真似したライバル社が増えてくることはどう思いますか?」という質問への答えが印象的でした。
この三者のサービスは全く違うやりかたでそれぞれ食品ロスを減らしているけれど、食品ロスの規模は想像以上に膨大で、自分たちのサービスだけで到底間に合わない。だから新しく参入する余地はまだまだあるし、どんどん増えていって欲しい、と。
日本でも廃棄野菜を救おう!と立ち上がったのは若い女性でした。
規格外野菜のフードロスをゼロに、と理念を掲げた八百屋タケシタ→ https://www.yaoyanotakeshita.com/
ただただ規格外野菜を売るだけではなく、生産者のストーリーなど「タベモノガタリ」を伝えて付加価値をつけるという、色々なアイデアを形にしてきたCEOの竹下友里絵さんは注目ですね。
日本では他にこのようなオンラインショップもあり、食品ロスを減らす取り組みをしています。ぜひ利用してみてください。もし他に「こんなの知っているよ!」という方はぜひ情報をお寄せくださいね!情報がある程度たまったらまとめのページを作りたいと思っています!
うまいもんドットコムのフードロスの取り組み→ https://www.umai-mon.com/l
ポケットマルシェのフードレスキュー特集→ https://poke-m.com/
ダイニングプラスのアウトレット→ https://www.dining-plus.com/shop/c/c75/
築地市場のフードロス削減コーナー→ https://www.tsukijiichiba.com/