世界的に有名な包丁メーカーの社長さんとお話しをしていた時。
「どんなに高価な包丁でも使えば切れなくなります。包丁は研ぐものです。」
という言葉が私の脳裏に焼き付きました。そう、包丁は切れてなんぼ。
研がないで切れる状態を保ちたければ、飾っておく他ありません。
昭和の懐かしい風景を思い出しながら
昭和の頃は「包丁のおじさん」が月一回ご近所の家々を周り、包丁を研いでくれていました。
おじさんが我が家にくると、たくさんあった家中の包丁を研ぐにはいつも丸一日かかっていました。毎回私はおじさんの為にお昼ご飯を作り、休憩時間にはよもやま話に花が咲いたものです。
そして家族の一員のようにおもっていたおじさんがおじいさんになり、亡くなられてからは、
「包丁は自分で研ぐ」と心に決めていました。
見様見真似でやってみるのですが、これがなかなか難しい。
研げば研ぐほど切れなくなるし、研ぐための適切な場所も決めにくいのです。
この時から包丁研ぎのひとり修行が始まりました。
ない道具はとにかく手作りしてみる
ある時、京都錦の有次さんに行った時のこと。
買い物もそっちのけで奥の包丁研ぎコーナーに目が釘付けに。
研ぐ時は砥石に水かけが必須、当然あたりも汚れます。
その包丁研ぎコーナーにある、流しに渡した便利そうな板が気になったのでした。
自分でも作れる簡単な方法を思いつき、帰宅してすぐに我が家のシンクの寸法を測りDIY屋さんへ向かいました。
お店で手ごろな板を希望の寸法(枚長い板1枚、小さい板3枚)に切ってもらいました。
長い板に小さい板をボンドで付けるだけ、5分もかからずに便利なものが出来上がりました。
< 包丁研ぎ用板の材料 >
- シンクの奥行きよりも長い板 1枚
- 3㎝程に短く切った板 3枚
- 木工用ボンド
< 作り方 >
写真の左側、裏になる側からストッパーを付けていきます。ちょうどいい位置に板を置き、シンクの奥行きの手前と奥、両方に印を付けます。板を貼り付ける際、印から少しだけ内側に余裕をみて貼り付けます。理由は使用時にたたんだ布巾をかませて固定するためです。
続いて写真の右側、表側にストッパーを付けます。
砥石を板の上に置いて固定したい位置、砥石の向こう側に小さい板を貼り付け、砥石がそれ以上向こう側にずれないようにします。
包丁を研ぐ準備
まず、板を流しに渡して手前に布巾を折りたたんでかませます。
こうする事で柔軟にしっかりと固定でき、手前がわずかに上がることで黒い水が手前に流れ出ることがありません。
そうでないと汚れた水が自分の方に流れ出して仕事がしにくくなります。
手前に布をかませて、ちょっとした傾斜をつけることで作業が快適に!
砥石をしばらくの間、水に浸します
水を含んだ砥石を板の上にセットして研ぎ始めます。
板の面はざらついているので砥石はずれません。流しの上で水をかけてすぐに洗えるから汚れても気にならない。
水を含ませたスポンジをそばに置いておくと適量の水を間髪を入れずに補給できてスムースに研ぐことができます。
とても具合が良いこの板はどうやら「渡し板」というようです。
包丁研ぎに興味のある方はこの簡易な渡し板作りをお勧めします。
大工仕事ができなくてもこの程度ならすぐに作れます。
残った板の端切れも無駄にはなりません。小さなまな板として重宝しますよ。
研ぎやすい包丁、研ぎにくい包丁がある
使っている包丁を片っ端から研ぐうちに気が付きました。
包丁には研ぎやすい包丁と、いくら研いでも切れるようにならない、
どんどんなまくらになっていくかのように思えるほど、研ぐのが難しい包丁も中にはあります。
三徳包丁や牛刀など洋包丁は両刃ですから研ぐのはコツが要ります。(コツについては最後のビデオを参照)
現在は1枚の金属で作られた包丁が主流ですが、これは素人が砥石で研ぐには難しすぎます。
包丁研ぎに苦労していた当時の私は、研ぎづらさが包丁によるものだと気がつかなかったのです。いまでは研ぎやすい包丁しか自分では研ぎません。習慣になればこっちのもので、すぐに切れ味が戻ります。
研ぎやすさにこだわって、ラバーゼでは使用頻度の高い三徳包丁とぺティナイフは初心者でも研ぎやすいよう、鋼を2枚のステンレスで挟んだ三層構造にしました。
「和包丁なんて自分で研げるのかしら?難しそう。」と尻込みなさる方も多いのですが、実は逆。
和包丁・薄刃は片刃だからこそ、角度を決めて研ぎやすく、素人でも良い切れ味に研ぎ上がります。
他に砥石を水平にする面直しと、バリを取る革砥があると重宝します。
包丁研ぎは自身の集中力を養うのにうってつけです。
シャーカシャーカシャーカとリズム良く研げるようになることに、達成感が味わえます。
いい料理を作りたければ包丁の切れ味が肝。
いいことづくめの包丁研ぎに挑戦してみませんか?
藤次郎さんの丁寧な研ぎ方講座のビデオを紹介します。
長いビデオですが、最後の言葉をぜひ聞いてくださいね。心に響く方が多いと思います。