メレンゲはお好きですか?
メレンゲというと、やたらに甘いだけで日本人にはあまり受けが良くないお菓子、という印象がありますが、イギリスでは根強い人気です。イギリスというより西側諸国全土というべきかも。日本が優しい甘さを好む珍しい国なのかもしれません。以前、Ladurée(ラデュレ)の影響でメレンゲ菓子のマカロンが日本でも大ブームになったことがありましたが、続かなかったのはやはり日本人には甘すぎたのでしょうね。
かつてのメレンゲは貴重な砂糖をしこたま使う貴族だけの食べ物でしたが、イギリスでもヘルスフードの台頭で古めかしい存在となり、さほど注目されていませんでした。ところが2002年にオープンした有名カフェ「Ottolenghi」 (オットレンギ) で、ウィンドウを華やかに飾るメレンゲ菓子が現れて以来、ファッショナブルに返り咲きました。2012年には、Meringue Girls (メレンゲガールズ)という若い女性二人組がカラフルで可愛い一口サイズの Meringue kisses (メレンゲキス)のビジネスを始めたら、ファッション業界に引っ張りだこになったりと、写真に映えることは大事な要素ということなのか、若い世代にも人気があります。
Ottoleghiカフェのウィンドウ。積み上げられた高さで一際目を引くのはラズベリーメレンゲ。かわいい!!でもメレンゲひとくちでお茶一杯流し込む羽目になりそう。
家庭の数だけバリエーションがあるパブロバ
前回、ベルガモットカードならぬレモンカードを作りました。そうなるとやはりパブロバが作りたくなりレシピを探すことに。パブロバは前に一度だけ、娘の地理の宿題でオーストラリアの食べ物を作る課題があり、一緒に作ったことがあります。
パブロバって、ロシアのバレエダンサー「アンナ・パブロワ」が作らせたデザートというのは聞いたことあるけれど、オーストラリア料理なの?オーストリアじゃなくて?と、意外に思ったのを覚えています。
今回調べてみたら、オーストラリアもニュージーランドも共に「パブロバは我が国の発祥」と主張しているらしく、デリケートな話題のようです。ただ、このアンナ・パブロワの逸話は真偽が問われているようで、パブロバというお菓子そのもの歴史は本当はもっと古いのでは?と、パブロバにまつわる食の歴史を深く調べた一冊の本「The Pavlova Story」(ザ・パブロバ・ストーリー)が2008年に発刊されました。これだけ国民に執着され愛されたパブロバってどんなものなのでしょう。
パブロバとは、基本的にメレンゲのベースに生クリームをのせ、上にフルーツをのせただけのシンプルな構成のデザートです。
上にのるフルーツがニュージーランドはキウイ、オーストラリアではパッションフルーツやパイナップル、イギリスでは苺、とお国柄が現れバリエーションは無限大です。一旦クリームやフルーツを乗せて盛り付けてしまうと、どんどんメレンゲのベースが水分を吸ってしまい、パリパリな表面の食感がなくなってしまうので、食べる直前に盛り付けるのが大事。
クリスマスなどの家庭でみんなが集まる日に「我が家スペシャル」の作り立てをわいわい食べるのが一番美味しいお菓子なので、良い思い出がつまった、人々の思い入れが強いデザートになっているんでしょうね。
甘ーいメレンゲ。砂糖の量は減らせるものか?
メレンゲのレシピをレシピブックで探してみると、卵白5つに砂糖が275gとありました。
甘すぎでしょ、半分以下で十分!と130gだけ入れて作ってみました。白い砂糖がなかったのでブラウンシュガーをフードプロセッサーで粉にして入れてみたら、いつまでたっても固くならない茶色いメレンゲが出来てしまう、という失敗を分量を微妙に変えて3度ほど繰り返し、砂糖の量をある程度入れないとメレンゲはできない、ということがわかりました。
ある程度ってどの程度?
卵白一個分に対し50gです。少なくとも50g…!ほんの少しの卵白に、小さじ8杯くらいの砂糖が入るのです。
それ以上の砂糖が入る暴力的な甘さのレシピもわんさか発見しました。料理上手で信頼のおける友人が大絶賛していたナイジェラ・ローソンのカプチーノパブロバのレシピ(リンクはこちら)は、卵白4つに対し砂糖が250gですが、これが普通の量なのです。ナイジェラは、Deep-fried Bounty Bar(ココナッツ入りチョコレートバーの天ぷら)というエルビスプレスリーが生きていたら喜びそうなレシピを発表したカロリーの女神様ですが、このメレンゲの砂糖の量は、本当に珍しくない標準値。これだけ砂糖が入るから表面がカリッとするし、日持ちもします。
こんなリサーチをしている間にトラブル発生、私のハンドミキサーが突然動かなくなり壊れました。
「泡立て器でメレンゲを作るなんてマゾヒストのやること」「伝統を重んじる80歳の母だってメレンゲ作りには機械を使う」などとイギリスのシェフ達はのたまい、メレンゲ作りを手動の泡立て器で作ろうとする人は散々バカにされますが、やるしかありません。
レモンカードとブルーベリーのパブロバ
メレンゲの材料
- 卵の白身Lサイズ 3個分
- グラニュー糖 150g
- レモン汁 小さじ1
- コーンスターチ 大さじ1
トッピング
- レモンカード 1カップ
- 生クリーム 250cc
- ブルーベリー 1パック
イギリス人は洗った食器に洗剤の泡が残っていても気にしないという習性がありますが、メレンゲ作りのボウルと泡立て器だけはそれは禁物、しっかり洗ってすすぐこと!とあります。少しでも油分や水分が残っていると白身が泡立たないので、レモン汁でボウルや泡立て器を一本一本拭くことも推奨されています。
泡立てに使うのは卵白が少ない量だとしても大ボウルが一番使いやすいです。機械がなくても、右の写真のように最初は平行一直線にシャカシャカ動かすだけで、卵白3個分までならそれほど大変ではありませんでした。2個分ならなお楽勝。おそれることもあらずです。最初にひとつまみの塩を入れると泡が安定するから良い、と書いてあるレシピもありました。
これくらいもこもこになったら砂糖を入れます。Meringue Girls はこの砂糖をまず200度のオーブンで7分焼いてから使うとレシピにあり、焼くことで砂糖が卵白に溶けやすくなるそうなのです。本当に違いが出るのかは今度試してみたいです。
まずはスプーン一杯の砂糖を加えよく泡立てます。砂糖を少しずつ加えて泡立てていくと、全て混ぜ切った頃には固く泡立っています。
指先でメレンゲをすりすりしてみて砂糖の粒を感じなくなったらオーケー。ここでレモン汁とコーンスターチを入れて混ぜます。レモン汁の代わりにCream of Tartar(クリームオブタータ)やビネガーを入れてもよく、とにかく酸性のものを入れます。すると卵白のアルカリ性が中性に寄り泡が安定するのですが、イギリスで影響力の大きい料理家のデリア・スミスは「メレンゲは卵白と砂糖だけで出来るから、クリームオブタータもコーンスターチも入れる必要はない。」と言い切ります。失敗したくない人(私)はレモン汁を入れ、中央をマシュマロっぽい食感にするためにコーンスターチを入れ、よく混ぜます。
ファン付きのオーブンを使う場合はクッキングシートの四隅にちょっとメレンゲ生地を付けてトレイにくっつけます。こうしておくと、焼いている最中にファンの風でクッキングシートがパタパタしません。
中央にメレンゲを盛り、ヘラで適当に形を作ります。中央を窪ませるとフルーツやクリームを盛りやすくなります。クリスマスパーティー用には、まず中央に筒状の何かを置き、周りに大きく輪っかを作るようにメレンゲを盛り、最後に筒を取り除くとリース型のメレンゲが出来ます。
100度に予熱したオーブンで2時間半焼き、扉は開けずにそのまま冷まします。本のレシピで1時間加熱と書いてあったのですが、我が家のオーブンではそれだと焼きが甘く、底部分がまだ乾いてなかったので、結局2時間半焼きました。低温でゆっくり焼きスイッチを切り、一晩入れっぱなしで忘れてしまうくらいがちょうどいいみたいです。下に砂糖の結晶が出来てしまいましたがそこはパキパキと取り、気にしないことにします。白いメレンゲを作るにはやはり白砂糖を使うしかありません。
中ボウルと中ざるを重ね、氷水を入れます。そこに中ボウルを重ね生クリームを泡立てます。こうやって冷やしながら泡立てれば分離しにくいし、安定して泡立てやすい。こういう一手間を面倒くさがらずにやると、かえって楽だということを学びました。この生クリームに普通はパウダーシュガーを入れるのですが、レモンカードも甘いしメレンゲも甘い、ここは絶対に要らないだろう、と入れるのを止めました。。
レモンカードをそーっと塗ります。こうするとメレンゲにクリームやフルーツの水分が染み込みにくい意味もあるかな、と思います。大人気シェフのジェームス・マーティンのレシピだと、この役目はホワイトチョコレートでした。ホワイトチョコレートを溶かしてたっぷりとメレンゲに塗り、固く泡立てた生クリームとカスタードクリームを合わせたものをのせ、ラズベリーをたっぷりのせて、キャラメルを上からたっぷりかけパリッとした食感をプラスしていました。冷蔵庫にしばらく置いてもホワイトチョコレートがメレンゲのパリッと感を守ってくれるので、パーティの時などにはとても良いそうです。「パブロバは健康志向の人向けではない。」とも言っていました。ごもっともですね。
家のおやつですからパイピングなどの必要はなく、ポテっとクリームを落として盛ります。そして生のブルーベリーを適当にのせます。ブルーベリーソースを作って上からかけても美味しそうだなーと思いました。メレンゲに浸みてきてしまうので、食べる時に各自でかけた方がいいでしょうね。
キッチンの窓辺で育てているレモンバームの葉をのせました。やっぱりレモンカードの黄色が効いていてかわいい!
切るとサクッと音がして、断面はこんな感じ。メレンゲの中はマシュマロ状になっています。レモンカードの酸味がいい組み合わせなのですが、やはりメレンゲって甘い。クリームに甘味を一切付けなくて正解でした。酸味のあるジューシーなフルーツがもっともっと乗っかっていても良いくらいです。
砂糖の量にどきどきしながらのメレンゲ作り、最後には成功しました。メレンゲを作るなら、躊躇せず思いきって砂糖を使う。これが大事なんだなと思いました。その2につづく