陰翳礼讃

明るさ=豊かさだった時代を経て

谷崎潤一郎の有名な随筆『陰翳礼讃』を皆様は読まれたことがあるでしょうか。
建築の学生時代、これは読んでおくとよいと先輩に勧められて読み、大いに影響を受けました。
日本の美意識の本質を陰翳の中に見出し、題名通り、陰の美しさを讃えています。

この随筆が昭和8年に書かれた当時から、さらに日本人の生活様式は欧米化の一途を辿り、現代を生きる日本人は、陰影の美を生活の場からほとんど失ってしまったと思います。

部屋の中は夜でも昼のように隈なく明るいことがよいと考える人が大多数のようで、日本の住宅は一般的に天井に大きな明るいシーリングライトが付き、陰を作らない蛍光灯のような光でどこも均一的な明るさになっている、という場合が多いです。都会では、外の街も闇を打ち消そうとするかのように煌々と眩しすぎる光に溢れています。しかし、それでは、折角の夜の美しさや夜の時間を楽しむことができません。

家の中へ招き入れる、夜の本来の主役

夜というのは本来は闇の世界。闇が主役であって、その中に必要なだけの美しい光があればよい。

まずは天井照明を消して、明るくしたい場所だけに光がある照明に変えるだけで、静かで落ち着ける、奥行きや余韻を感じる空間へと変わります。

1日の終わりに、昼間とは違う夜の世界の訪れが毎日楽しみになるでしょう。

ペンダントライトを下げてみる

ダイニングテーブルとペンダントライト
照明は、デンマークの Muuto社の “AMBIT PENDANT” です。
存在感を消したような、シンプルで薄く「なんでもなさ」がとてもいい感じのライトです。

有元が「自宅でペンダントライトの高さを20cm下げたらとても良いの!」と言って喜んでいました。それまでテーブルトップから80cmだったところを、20cm下げて60cmにした、というのです。

夜が長い北欧では、ライティングはインテリアで最も大切な要素だそうです。ダイニングペンダントライトの高さは、日本人の感覚よりかなり低めで、このようなライトの場合は、「テーブルトップから55~65cm」で設定するとよい、と『北欧式インテリアスタイリングの法則 ( フィルムアート社)』に書かれていて、その数字に驚きました。

低すぎるのではないか?と感じたのですが、60cmにしたらちょうどよくなった!と有元が言うように、北欧のペンダントライトは、もともと低くつけるようにデザインがなされているのでしょう。80cmから60cmに低くすることで、テーブルの上はより明るくなり、周囲の闇はさらに深くなります。

キッチンカウンターの上のペンダントライトも60cm設定に

キッチンカウンターの上のライト
こちらのガラスセードの照明はイタリアの建築家ミケーレ・デ・ルッキの
プライベートブランド“Produzione PRIVATA社”のものです。
よく問合わせを受けるのですが、残念ながら廃盤品で現在は入手はできません。

立って使うキッチンカウンターと座って使うダイニングテーブルでは面の高さが違いますが、同じことです。カウンター面がより明るくなるため、その上にある料理や食材がより美しく見える、という効果があるのです。

“美と云うものは常に生活の実際から発達するもので、暗い部屋に住むことを餘儀なくされたわれわれの先祖は、いつしか陰翳のうちに美を発見し、やがては美の目的に添うように陰翳を利用するに至った。”

- 谷崎潤一郎『陰翳礼讃』より引用

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